イングリッシュオンリーポリシーと第一言語使用について

コラム
イングリッシュオンリーポリシーと第一言語使用について

タクトピアの英語教育スペシャリストであり、オンライン英語学習プログラム リンガハッカーズを監修する嶋津幸樹による、英語教育に関する研究の一部をお届けします。


イングリッシュオンリーポリシーと第一言語使用について

バイリンガルの子どもが第一言語と第二言語を切り替えながら話すコードスイッチングという興味深い現象があります。そしてその利点が数多くの研究により実証されてきました。その現象を応用して、私は、第二言語として英語を学ぶ学生がどのようなインプットをすることで効率的に目標言語を身に付けることができるかという問いに大学の時に直面しました。そこで大学院では語彙指導における第一言語使用の効果について研究しました。今回は言語指導における第一言語使用とそのメリットについて、最先端の研究結果を挙げながらみていきたいと思います。

イングリッシュオンリーポリシーとは?

イングリッシュオンリーポリシーという言葉を聞いたことがありますでしょうか?2008年に文部科学省は高等学校新学習指導要領で「英語の授業は英語で行うことを基本とする」と明示し、2010年には「状況に応じて英語で行う」という表現に変わり、当時現場は混乱しました。つまりイングリッシュオンリーとは英語のみで英語の授業を展開することと当時解釈され、英語を使って授業をする先生は凄い!という流れが生まれました。そもそも英語の授業では英語で教えることを基本とするモノリンガル・アプローチ(monolingual approach)は本当に有効なのでしょうか?

“第一言語使用に対するマイナスなイメージと教育現場とのギャップ”

20世紀後半近くまでは学習者の第二言語学習に悪い影響を与えるとして教室内での第一言語使用(L1 Use)は否定され続けてきました。理由の一つとしてHarbord (1992)は第一言語に翻訳することは言語を簡素化し、文化的言語的なニュアンスを失うことに繋がると警告していました。またLightbown(2001)は、外国語環境は生徒にとって唯一の言語モデルであるべきであり、第一言語使用は負の転移(negative transfer)となりうると主張しました。つまり外国語の授業での第一言語使用は好ましくないとされてきたのです。さらに巷ではイマージョン教育たるものが流行し、イマージョン=幼少期から英語のみの教育が良しとされてきました。

実際の現場ではどうなっているのでしょうか?ベネッセ教育総合研究所が2015年に実施した「中高の英語指導に関する実態調査2015」では授業で英語を半分以上使っている割合は、中学校6割、高校5割弱ということが明らかになり、中国のDong and Zhu(2007)の調査では96%の教師が語彙の意味や使い方を説明するときに第一言語(中国語)を使っていることが分かっています。これらの調査で浮き彫りになるのは、実際に現場では新出語彙の説明や理解確認というような目的で第一言語が許容されているということです。

それらを踏まえ私独自の経験から言うと第一言語使用は、特に若者から成人の学習者にとって非常で有効であるということです。自分自身、13歳から英語を学び始め様々な英語学習方法を体験してきた身として適材適所の第一言語使用が効果的であると実感しています。また10年の英語指導経験で、イングリッシュオンリーで教えるよりも適材適所に第一言語を使用したほうが生徒のモチベーションを高め、生徒がより積極的に授業に参加し、高次的な思考力を使う機会を提供できたと自負しています。

第一言語使用には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?そんな疑問を少しでも解消する第一言語使用の利点5つを紹介します。

1 生徒と調和的な関係(rapport)を築いていく

ある中学校の先生に第一言語使用についてインタビューした際に印象的なエピソードを共有してくれました。それは英語で授業を始める前に、生徒全員を着席させて身だしなみを整えさせて号令をする作業があり、その指示は日本語でないと聞く耳を持たない生徒がいるということでした。イングリッシュオンリーの議論以前に規律に重きが置かれている日本では教室管理に第一言語が有効であると言えます。

2 生徒の発話を最大

Atkinson (1987)によると、第一言語であれば生徒のコミュニケーション意欲(Willingness to Communicate)が向上し、自分の意見を正確にかつより具体的に表現できることがあります。これに加え、第一言語を使うことで生徒個人のみならず生徒間での意見交換も活性化される研究結果も出ています(Anton & DiCamilla, 1998) 。特に初級レベルの生徒を対象とした授業で第一言語使用を制限することは、第二言語不安(foreign language anxiety)など望ましくない教育実践法に繋がるとされています。Cook(2002)は学習者のニーズを認識した上で第一言語の使用(L1 use)を展開すべきであるとしています。

3 戦略としての言語切替

グローバル社会において複数の言語を操れることは価値のある財産として考えられており、多言語使用者にとっての言語切替(code-switching)はコミュニケーション戦略であるという考え方があります。Gumperz (1982)は実際に英語学習者の会話を分析し、言語切替には5つの役割があると結論付けました。それらが (1)quotations(他人の言葉などを引用する)、(2)addressee specification(話す相手を明示する)、(3)interjections(あぁ!などの感嘆詞)、(4)reiteration(内容を繰り返す)、(5) message qualification (内容を修飾する)、(6)personalization versus objectivization(個人的な内容と客観的な内容の区別)です。また、ある地域に対するメンバーシップの確立や話し相手、状況や会話の内容によってcode-switchingをしているのではないかとも言われています(Wardhaugh, 2010)。

4 認知的な利点

特に第一言語の基礎がすでにある学習者にとっては、第二言語も第一言語を通して確立されています(Seidenberg & Zvin, 2016)。つまり第一言語は言語学習の認知的な負担の手助けにもなるということです。また、McMillan and Turnbull (2009)は第二言語使用(英語)のみで指導することは授業内容をしっかりと定着させる機会を奪うことに繋がると示しています。ライティングのフィードバックに関する研究でも第一言語使用が認知負担を軽減し、第二言語でのライティングの向上に繋がったということが明らかになりました(Zhao, 2010)。リーディングにおいても第一言語使用が有効であることが多数の研究によって証明されています。

5 文法解説と語彙指導

Cook(2001)は文法指導をする際には第一言語を使用すべきだと述べています。Gao and Dai(2007)は5人の大学の先生の英語の授業を分析し、語彙解説で最も頻繁に使用されるのが第一言語への切替であったと報告しています。これに加えTian and Macaro (2012)の最近の研究では、中国の英語を専門とする学生を対象にリスニングのあとの語彙習得を比較し、結果として教師が第一言語を使用するほうが第二言語のみより優れていました。LittlewoodとYu (2011)が述べているように最初に語彙を提示する段階で第一言語を使用することは単語の意味を明確にする上で効果的な方法であると結論付けています。文法用語を用いて英語で英文法を説明する機会は現実社会でも稀です。よって複雑な文法構造や専門用語は第一言語で簡潔に教えるべきということです。

第一言語をどの場面でどの頻度使用すべきかの決定的な証拠はまだありませんが、このように最新の研究結果について知っておくことは学習者として、そして指導者としても効果的な英語学習を実現する方法の一つのように思います。


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